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Kazuma Kubota – ex.Bloody Letter

INTERVIEW with

Kazuma Kubota – ex.Bloody Letter

September 2011, メールによるインタビュー 聞き手/平野Y([…]dotsmark)

Bloody Letterとは、Kazuma Kubota(久保田一馬)氏が本名名義で活動するよりも以前、彼が最初に本格的なノイズ活動を始める際に使用したユニット名である。
Bloody Letterというユニットは2004-2007年の間存在し、幾つかのソロカセット、国内外ユニットとのスプリットテープ及びCDR、弊レーベルによるV.A.”HEAR JAPANESE SEE JAPANESE SAY JAPANESE”への曲提供、そして幾度かのライヴ、自主企画等で活動の痕跡を残した。

今回のインタビューはBloody Letterのベスト盤である”Past”(ooo-21/[…]dotsmark)のリリースを契機に行われたが、Bloody Letterについて言及するには、まず現在のKazuma Kubotaについて知る必要があった。
本インタビューは現在のKazuma kubotaの活動を踏まえて、その前段階であるBloody Letterについてインタビューすると言う形を取っている。

Q1.まず、久保田さんの基本的なプロフィールを教えて下さい。現在何歳ですか。

A1.久保田一馬。埼玉県川越市在住。現在31歳です。ハーシュノイズアーティストとして活動しています。


Q2.現在の久保田さんのサウンドマスタリングからは非常にプロフェッショナルな仕事ぶりを感じますが、録音はどのような環境で行われていますか。

A2.特別な環境はありません。以前は自宅録音が主でしたが、最近は近所迷惑を考慮してリハーサルスタジオを借りて録音をしています。基本的にアナログエフェクターで演奏して録音した素材をラップトップに取り込んで、編集-ミックスダウン-マスタリングを行ないます。


Q3.ノイズ系のアーティストで影響を受けた人物を幾つかあげて下さい。SICKNESSや遠藤一元氏の影響はかなり大きそうですよね?

A3.SICKNESSと遠藤一元氏からは多大な影響を受けました。その他にも普段からノイズは沢山聴いていますし、影響は常に受けていますが、全て挙げれば切りが無いのでやめておきます(笑)


Q4.ノイズ以外ではどのようなものが久保田さんの作風に影響を与えていますか。
久保田さんが影響を受けたノイズ以外のミュージシャン、文学、芸術、映画、サブカルチャー、人物、事件、個人的な思い出などあったら聞かせて下さい。
現在の久保田さんの作風は暴力性とセンチメンタリティが同居し、エモーショナルで、なおかつ清潔なまでの透明感と叙情性を感じさせますが、この世界観はどこから生まれるのでしょうか。


A4.僕が十代の頃に聴いていたUSインディー/オルタナロック、UKロック/シューゲイザー、アンビエントから受けた影響は大きいと思います。

My Bloody Valentineの”Loveless”は僕の人生を変えました。

映画も好きで、ヴィム・ヴェンダース、アンドレイ・タルコフスキー、デヴィッド・クローネンバーグ、大友克洋、押井守、等の作品からインスピレーションを得ることがあります。

それとウィリアム・エグルストンというアメリカの写真家の作品が好きです。

僕は作品を作る上で映像的なストーリー性と、自身の感情を表現することが重要だと考えています。

僕はハーシュノイズを単に暴力的な表現として使用するのではなく、もっと深い感情の爆発のピークを切り取ったイメージとして使用しています。

アンビエントは悲しみ、孤独、喪失感、憂鬱、等の現実の生活の中で感じる、行き場の無い感情を表現する為に使用しています。


Q5.ホラー/スプラッター系の映画が好きだという話を何度か聞いた様に思いますが、それらの映画からインフルエンスされる事はありますか?

A5.僕がサイドプロジェクトとして密かに活動している”The Cracked Mirror”はスプラッタホラーからインスピレーションを得ています。

ジョージ・A・ロメロ、ルチオ・フルチ、ダリオ・アルジェント、トビー・フーパー、ユルグ・ブットゲライト、彼らの作品が大好きです。


Q6.現在本名名義の他に幾つかのサイドユニットで平行して活動していますが、その全てがいわゆるノイズ・ユニットですね。それぞれの名義の違いについて教えて下さい。

A6.先の質問で挙げた”The Cracked Mirror”はスプラッタホラームービーや死体をイメージしたHNWプロジェクトです。

もう一つの”Cecilia”はBrokenFlagやオールドスクールなノイズ/インダストリアルに影響されたノイズドローンプロジェクトです。

その他にも遠藤さんとのコラボレーションユニット、フィンランドのKerrnenと”KKTK”というコラボレーションユニットをやっています。


Q7.名義をいくつかに使い分けながらもあくまでノイズに拘る原動力とはなんでしょうか。

久保田さんはオンライン上で「ノイズがいつも僕を救ってくれている」等、ノイズに対する特別な感情を度々吐露されていますが、久保田さんにとってのノイズと はなんでしょうか。自らの手で発振するノイズについて、久保田さん自身はそれをどのように解釈していますか。「既成ジャンルとしてのノイズ」、「久保田さ ん自身の手によるノイズ」それぞれに対しての久保田さんの考え方をお聞かせ下さい。また、久保田さんの制作するノイズとは芸術でしょうか、それとも享楽的 な音楽でしょうか。個人的にはKazuma Kubota名義で製作しているノイズは音楽としての高みを目指しているように感じていますが。

A7.僕がノイズに特別な感情を持つのは、僕がノイズ以外に自信を持てることが無いからだと思います。

ノイズを演奏している時は普段の自分から解放されたような気分になれます。

僕は高尚な意味での芸術には興味がありません。

ハーシュノイズはもっと気軽に聴かれるべきだと思っています。


Q8.久保田さんはノイズの中でも特にハーシュノイズについて特別な思い入れがあるのではないかと思うですが、いかがですか。

A8.何故か分からないですけど、ハーシュノイズは僕の嗜好性にとてもフィットしていると感じます。

すごく自由な感じがします。


Q9.その「自由な感じ」とは?

A9.良くノイズはどれを聴いても同じに聞こえると言われる事が度々ありますけど、これほど周波数のダイナミックな変化や音色のバリエーションを作れる音楽は他のジャンルには無いのでは?と思います。


Q10. 日本のカットアップ系ノイズの旗手である遠藤一元氏とのユニット、”Kazumoto Endo and Kazuma Kubota”の1stCD”Switches and Knobs”が米国Phage Tapesからリリースされましたね。これは英国の有力音楽誌”WIRE”にも掲載され話題となった様ですが、リリース後、国内外から直接的なレスポンス は増えましたか?

A10.そうですね、一部のシーンのリスナーの方々からは良い感触の評価を頂けたので良かったと思います。

遠藤さんはご存知の通り世界的に有名なノイズアーティストで僕の憧れの存在でもあるので、評価云々よりもこの作品がリリースされた事を嬉しく思います。

レーベル側の積極的な働きでディストリビューションもされてるようですし、これを切っ掛けに世界中で名前を知ってもらえれば有難いです。

しかし、それでコンタクトが増えたかは、正直分かりません。


Q11. 最近のKazuma Kubotaの音源は緻密に構築され尽くしたハーシュノイズと美しいアンビエント音、効果的なフィールドサンプリングによる非常に音楽性の高いもので、単 純にノイズの分野だけで語る事の難しいレベルに達していると感じています。例えばインテリジェンステクノやブレイクコアの世界にも通じるのではないかと個 人的には考えているのですが、実際にノイズ以外のシーンからアプローチを受けたり、関わったりすることはあるのですか。

A11.今の所特に無いです。 ですが、他ジャンルとの絡みは以前から興味はあります。


Q12. 既にマスターが完成しリリースが待望されているNINCH CIRCLE(カットアップハーシュの世界的名手であるSICKNESSの主宰レーベル)からのソロCDですが、NINCH CIRCLEからのリリースが決まった経緯を聞かせて下さい。アナウンスされてから相当の時間が経過していますが、リリース時期は決まりましたか?

A12.クリス(Sickness)とは彼が来日ツアーの際に、東京で知り合いました。

彼が僕の”Distorted Aki No Sampomichi”(3″CDr)という作品をとても気に入ってくれて、その直後にリリースのオファーをメールで受取りました。

リリースの遅れに関しては詳しくは言えませんが、マスターは既に完成しているので、時期は未定ですがちゃんとリリースされるだろうと思います。


Q13. その他に様々なレーベルからソロ作やコラボレーション等の音源が続々決まっていますね。リリースフォーマットのグレードも年々上がっているように思いま す。まさにブレイク前夜と言った熱気を個人的には感じているのですが、ご自身では活動に対する手応えや充実感の様なものを感じることはありますか。

A13.ブレイクとは言い過ぎな感がありますけど、知名度が広まったり海外のレーベルからリリースオファーが増えているのは有難い事です。

CDやレコードのフォーマットでリリースするのはお金が掛かりますからね、レーベル側の情熱に感謝しています。


Q14.最近久保田さんが注目しているノイズ周辺の動向やアーティストがあれば挙げて下さい。

A14.アメリカのミネアポリス周辺のハーシュノイズシーンは最近良いですね、それと北欧ヨーロッパシーンとイタリアシーンも以前から凄く面白いと思います。

日本の若手ノイズシーンも良くなって来ていると感じますけど、良いだけに海外で知られていないのが勿体無い気がします。


Q15. 久保田さんの運営しているレーベルNoise Ninja Records、またレギュラーイベントであるNoise Ninja Resistanceと、2009年にENDON等と共同開催したイベントNOISE ANALYSYSについてお聴かせ下さい。上記の活動から、久保田さんは自身の為だけの活動だけでなくノイズシーンと呼ぶべきものについても何らかの意識 を持って関わろうとしているように見受けられますが、いかがですか?

A15.レーベルは自分の作品をリリースする為に始めました。

自主企画のNoise Ninja Resistanceも始めた切っ掛けは同じで、当時ライブ演奏をできる機会が全くなかったので、誰も相手にしてくれないなら自分でやるしかないと思い始めました。

日本のノイズミュージックは海外で多少なりとも需要がありますが、日本国内に置いての扱いは相変わらず酷いと感じます。

取り分け若手に関しては殆ど無視に近い状況です。

この状況を少しでも打破して好転させる為にも、若手を中心としたシーンの形成が必要だと思い、ENDONと共同主催でNOISE ANALYSYSを始めました。


Q16. 久保田さんが日本のSNSで運営しているハーシュノイズ専門のコミュニティの参加者は2011年10月現在で300人を越えますが、実際にハーシュノイズ の音源を継続的に鑑賞したり、ライヴに足を運ぶ人口とは隔たりがあるように思います。こういったことについて、久保田さんはコミュニティ主宰者として、 レーベルやイベント運営も行うノイズアーティストとして、現在の日本のノイズの現状について思う事はありますか。

A16.コミュニティは放置しています(苦笑)

参加するだけで、何も積極的な発言をする人が居ないので。

ライブの動員数が増えない現状は残念だと思いますね。

僕等が広める為の努力をする事は勿論大事でしょうけど、それにしてもメディアで流される音楽にしか目を向けない受け手側もどうかと思います。

先にも述べましたが、もっと世界に向けて発信しないと駄目だと思いますね。

それとアーティスト側の人間でさえも他アーティストの音源を買って聴く習慣がなく、海外のアーティストと自分のクオリティーレベルの差に気付いていない人が多いように感じます。


Q17. 久保田さんが本名名義である現在のKazuma Kubotaとしての活動以前にやられていたのがBloody Letterということになりますが、Bloody Letterとはなんだったのでしょうか。Bloody Letterとしてのおおまかな活動の履歴を教えて下さい。何歳頃から何年やっていたということになりますか?

A17.Bloody Letterは04年の冬から自宅の録音ユニットとして始めました。

最初の頃はひたすら試行錯誤と録音を繰り返して、録音したテープを他人のライブ会場で配る等の趣味程度の活動でした。

Bloody Letterとして活動していたのは07年迄です。


Q18.Bloody Letterというユニット名の由来を教えて下さい。ホラー/スプラッター的な、或いは憎しみや悪意の様なものを連想させるフレーズですがそう言った思いが込められているのですか?

A18. よく憶えていないんですけど(苦笑)
確かその様なイメージだったと思います。


Q19.私と久保田さんが初めて接触したのは、2004年頃、国内の某自作音源登録サイトを介してでした。その頃の久保田さんは既にノイズ制作を始めていましたね。

そもそものノイズを始める切っ掛け、その後久保田さんがBloody Letterとして本格的に活動を開始するまでのお話を聞かせて下さい。

上記のサイトに於けるノイズ音源発表以前にもバンド活動や楽曲制作のキャリアはありましたか。

A19.遊び程度で本格的なバンド活動はありません。

当時比較的手に入れやすかったアルケミー、殺害塩化ビニール、暴力温泉芸者を知ったのがノイズっぽい音楽に興味を持った切っ掛けです。

その後、電子雑音を読み、新宿の某ノイズ専門店で散財して(苦笑)ノイズの知識を増やしました。

それと同時期に聴くだけではなく自分でもノイズを始めてみようと思いました。


Q20.Bloody Letterの時代でのライヴや録音の手法、姿勢はどのようなものでしたか。

A20.Bloody Letterの頃の作品は完全に自宅録音です。

初期はカットアップ要素も少なくて単調なハーシュノイズという感じでしたが、KillerBugとSicknessの作品を聴いて衝撃を受けて以降からは音楽的でドラスティックな展開のあるハーシュノイズを意識するようになりました。

後期の作品は既に現在の基本スタイルが確立しています。


Q21. 今回収録されている楽曲は後期のものですよね?既に現在と同じカットアップスタイルになっていますが、ハーシュ部分の音色が現在と趣が違いますね。 Bloody Letterの頃の方がある意味でよりノイジーと言うか、濁りが多いと言うか。この現在と過去の微妙な違いというのは作家としての成長を示しているので しょうか、それとも表現したい世界観がそもそも違ったのでしょうか。

A21.現在の音作りに関して言うと、単純に当時よりも機材の量が増えて色々とアイデアを試せるようになった事ですかね。

それと最近の曲は間を意識して曲の展開を作っていますが、Bloody Letterの頃の方はもっとハーシュ寄りで、爽快感を感じる速さを意識していたと思います。

作曲のプロセスに関しては特に違いがあるとは思いませんが、現在と比べると多少荒削りな部分はあるかも知れません。


Q22.今回このような音源を企画した意図をお聞かせ下さい。何故この時期に過去の、しかもBloody Letter時代に限定してリイシューすべきと考えたのですか?

A22.流通も少なく、海外のコレクターの間でも探しているが手に入らないという声が以前からあるのを知っていたので、今回このような形でリリースを考えました。

久しぶりに自分で聴いてみて、我ながら悪くないなと思ったので、これは出せるなと思いました。


Q23. ちょうど弊レーベルが2007年にリリースしたV.A.”HEAR JAPANESE SEE JAPANESE SAY JAPANESE”への楽曲提供の直後にBloody Letterから本名へと名義変更されていますが、この時期に名義変更を決意した理由とはなんでしょうか。

A23.後期のBloody Letterでは既にサウンドスタイルが確立していた事と、活動を続ける中で表現したいイメージと名前との違和感を感じるようになり、もっとパーソナルな感情を投影する意味で本名に変えました。


Q24..Bloody Letterと、Kazuma Kubotaでは、作風やコンセプトにその違いがあるのですか。あるとしたら、Bloody Letter時代と、現在とで変わったものはなんでしょうか。

A24.Bloody Letterの頃は先に述べたましたが、もっとハーシュノイズ寄りで、フィールドレコーディングや具体音の要素が現在よりも少なく、無機質で冷たい質感を意識していました。

現在はもっと間を生かした音響操作と、有機的な質感と、よりダイナミックでストーリー性の高い曲作りを目指しています。


Q25.今回のベスト盤編集にあたり、選曲の基準はなんでしたか?

A25.純粋に現在でも聴けるなという曲を選びました。

この作品に収録されているのは全曲2007の音源から収録しました。

理由はアルバムとしてのトータルバランスを考えると、初期の音源はどうしても後期の作品と比べて劣ってしまうと思ったので、今回は敢えて収録しませんでした。


Q26.Bloody Letter名義時代を振り返ってみていかがですか?当時の活動に対する意識、サウンド、ライヴや当時の久保田さんを取り巻く環境についての思い出など聞かせて下さい。

A26.Bloody Letterの頃はとにかくスタイルを確立する為の試行錯誤の段階という感じでした。

ライブ演奏も失敗ばかりでしたし(苦笑)、今初めの頃を思い出すと凄く恥ずかしくなります。


Q27.今後Bloody Letter名義での活動はありえますか?

A27.それは無いと思います。

やっている事自体は、Bloody Letterから現在に続く延長線上にあると思っているので、名義を使い分ける意味は特に無いような気がします。


Q28.ありがとうございました。最後になにかあればどうぞ。

A28.この作品のリリースを快く引き受けてくれた[…]dotsmarkと、この作品を手にしてくれてた全ての人に感謝!









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